突如、頭上から降ってくる声。
その声にゆっくり振り向くと、すぐ背後に守屋先生が立っていた。
「守屋先生……」
「澤田と松坂、お疲れさん。……お、今からそのお菓子を配りにいくのか?青春だねえ〜」
背の高い守屋先生からは、私のバッグに詰めるように入っているお菓子は丸見えだったらしい。
微笑ましそうにバッグの中身を見つめている。
先生、違うよ。私、このお菓子配りに行けないんだよ。失敗作なんだよ。全然美味しくないの。そんな微笑ましい顔して見ないで。どんどん惨めになっちゃう……。
糸が切れたように、私の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちる。
顔は見れなかったけど、守屋先生はそんな私の姿を見て目を丸くしたに違いない。
「え、澤田?!ごめん、俺、何か言っちゃマズイこと言ってしまったかな……!」
守屋先生の慌てた声が聞こえる。
先生は悪くないよ。そう言いたいのに、涙のせいで思ったように声が出ない。
「先生、違うよ」
私の気持ちを代弁するように、梨香が声を発した。
「あのね…私達今から部活の皆にお菓子を配りに行こうとしてたんだけど、未羽、お菓子が思うような出来にならなかったみたいで。渡すか渡さないか悩んでたとこなの」
「そうだったんだ……。デリカシーのないこと言ってしまってごめんな、澤田」
ポツリと申し訳なさそうに呟く守屋先生。私は必死に首を横に振った。
「別に……先生は悪くないよ。私が、見栄を張ったのがいけなかったんだもん…。やっぱり私、配るのやめる。こんな失敗作もらったところで迷惑にしかならないしっ……」
これは愚痴だ。吐きどころのなかった気持ちを誰かにぶつけたかっただけなんだ。
私は守屋先生に踵を返す。今すぐにでもこのお菓子をゴミ箱に捨ててしまいたい。そんな気分だった。
「あ、待って……!」
守屋先生は歩き出そうとする私の腕を掴んだ。
「澤田がよかったらそのお菓子…俺にくれないか?!」


