ほろ甘ガトーショコラ



守屋先生を好きなったきっかけはーーーちょうど1年前のバレンタインデーだった。


「梨香…こんなの選手や先輩達に渡せないよぉ…」

「未羽、大丈夫だって!皆、優しいから…!」


高校1年生のバレンタインデー。
私は陸上部のジャージ姿でバッグを抱え、靴箱の前で立ち止まっていた。


”陸上部では毎年、バレンタインデーにマネージャーが選手達にお菓子を配るのが恒例の行事になっているんだよ!”


先週、先輩マネージャーが教えてくれたことだ。
それを聞き、私はお菓子作りが得意でもないくせに、先輩達に少しでもよく思われたくてガトーショコラを作ることにしたのだ。
でもそれが失敗だった。

慣れないものを作ったせいで、出来はかなりひどいもの。
見た目もイマイチ、味はパサパサしていてとてもガトーショコラとは言い難い。
それでも作り直す時間も材料もなかったから、その失敗作を持ってくるしかできなかった。
何も持ってこないほうが、失礼だと思ったからだ。

でもその失敗作をいざ渡すとなると、恥ずかしさから腰が引けてしまい…今に至る。


「皆、優しいからこそ、心の中で何て思われるか……」


こんなことなら、見栄を張ってガトーショコラなんて作るんじゃなかった。
どうしよう、やっぱり渡すのやめようかな。家に忘れてしまいました、とか。それか登校中に転げてしまって、形が崩れて渡せません、とか……。

頭の中で必死に言い訳を考える。こんなことを考えている自分が、惨めで恥ずかしい。
うっすらと目に涙が溜まってくるのが分かる。


ーーーその時だった。


「どうしたんだ、部活行かないのか?」