「俺は、この1年で澤田のいいところたくさん見つけることができたよ。澤田は頑張り屋だよな、負けず嫌いで何事も一生懸命に取り組む姿。ああ、この子はどんどん伸びていく、成長していくなあって……澤田を見る度に思ってた。
澤田はまだ自分の力に気づいてないだけで、これから先もっと強く、逞しくなっていくと思う」


何で先生、こんなに私を見てくれてたの。こんなに私を認めてくれるの。こんなこと言われると嬉しいに決まってるじゃん。もっと好きになってしまうじゃん。
先生はずるい、ずるすぎるよ。


「だから澤田は、もっと自分自身を認めてあげて。もっと自分に自信を持って。成功しか知らないよりも苦労や悔しさを経験したほうがきっと強くなれるから。

……ガトーショコラ、とびきり最高に美味しかったよ」


守屋先生が笑う。

これが私の見たかった顔。
大好きな守屋先生の笑顔。

ポロポロと溢れる涙をティッシュで拭う。


ーーー先生の引き出しの中に入っていたもの。それは大量の白紙ではなく、キラキラ光る金属の輪がぽつんと一つ、ただそれだけだった。

そう、婚約指輪。先生は結婚していたのだ。

前に引き出しの中を見た時は、きっとなかった。先生は最近結婚したのかもしれない。

普通といえば普通だ。守屋先生は25歳。いつ結婚してもおかしくない歳だと思う。
私の知らないところで守屋先生には恋人がいて、私の知らないところで守屋先生は幸せな家庭を築いていくのだろう。

私が知っている守屋先生なんてごく一部。先生としての守屋先生だけだ。それなのに、一方的に思いを抱いて一方的に失恋した気持ちになるなんて、自分勝手もいいところだ。


だから、この気持ちはそっと胸にしまうことにする。大人になるんだ、私は。守屋先生の重荷になるようなことはしない。そんな生徒になるのだ、私は。


「……先生、そんなこと言ってもいいんですか?」