私は拳をギュッと握る。
「……先生、1年前に私に言ってくれたこと、覚えていますか」
「……うん、もちろん覚えてるよ」
守屋先生の目は澄んでいた。先生も1年前、あの光景を思い出してくれているのだろうか。
「……私、先生が言ってくれたことがとても嬉しかったんです。私って不器用なくせに見栄張りの完璧主義で……失敗作なんか作ったら、誰からも認めてもらえないって思ってました。
なのに、先生は失敗作を褒めてくれましたよね、次に繋がる糧だって。私、この時失敗した自分も認めてもらえた気がして、とても嬉しかったんです」
「………うん」
「だから私、今年は1年前の失敗を踏まえてとびきり美味しいガトーショコラを作ってやろうと思ったんです。先生にもっと認めてもらおうと思って。先生に今年こそは美味しいって笑ってもらおうと思って。
だって私先生がーーー」
そこまで言い、はっとして口を紡ぐ。
私は今、何を言おうとしてた?先生にガトーショコラを渡すだけだったんじゃないの?勢い余って何言おうしてたの。私が思いを伝えたところでどうなる?先生にとって私の気持ちなんて、重荷にしかならない。
だって先生はーーー。
「澤田」
守屋先生の手が伸びてくる。え、と思った時には守屋先生の手は私の目元に触れていた。その手にはティッシュが握られている。
そうか、私は泣いてたんだ。


