「ーーー先生」
私はコーヒーカップを机に置くと、守屋先生に向き直る。雰囲気を察したのか、守屋先生もコーヒーカップを机に置くと、私に体を向けた。
「……ん、どした?」
「今日はわざわざ時間を割いて勉強教えてくれてありがとうございました。先生の話、分かりやすいからつい聞き入ってしまうんです。丁寧で、とても楽しかったです」
守屋先生は少し照れ臭そうに頭をかいた。
「全然。……いや、なんだかこうやって改まって言われると恥ずかしいな。実は俺、あんまりマンツーマンの指導に慣れてなくてな。それでも、こうやって嬉しい言葉をかけてくれる澤田みたいな生徒がいるから、頑張ろうって思えるんだよね」
先生がマンツーマンの指導に慣れてないことくらい、知ってる。1年前から先生を見てきたんだから。
こうやって先生が喜ぶ言葉をかけるのだってーーー。
「澤田、ありがとな」
守屋先生の手が私の頭に置かれる。
先生は何も知らない。
こうやって頭を撫でるのだって、ただ一生徒を褒めるために、意味なんて持たずにやっていることなんでしょう?これが私をどれだけ喜ばせているか、先生は知らない。
先生は、ずるいよーーー。
ギュッと胸が締めつけられる感覚がした。
私は床に置いていたリュックサックを膝に乗せる。
ーーー渡そう。
先生に今、このタイミングでお菓子を渡そう。
そう思った。
「……先生、お礼と言っては何ですが……。今日って2月14日だし、私、お菓子作ってきたんです。よかったら食べませんか?」


