数分後に守屋先生は両手にコーヒーカップを持って戻ってきた。
「おまたせ〜。あ、ちゃんと澤田のためにミルクと砂糖も持ってきたからなっ」
守屋先生はコーヒーカップを机に置くと、ポケットからコーヒーフレッシュとスティックシュガーをバラバラと取り出した。
「だから、お子様扱いしないでって……。私、そんなにいらないし……」
ボソッと呟くと、守屋先生は豪快に笑う。
「ははっ!冗談だよ、冗談。まぁ、好きなだけかけなさいな」
守屋先生はスティックシュガーを開け、半分ほどコーヒーの中に注ぎ込む。コーヒーフレッシュはいらないらしい。
私は、コーヒーフレッシュとスティックシュガーを1つずつ手に取った。湯気の立つこげ茶の液体の中に、それらを注ぎ込んでいく。見る見る間に液体はほんのりと明るい茶色になった。
「へぇ、澤田はもっと甘党だと思ってたわ」
ズズッと音を立てながらコーヒーをすする守屋先生。私もつられるように、フーフーと何度か息を吹きかけた後、コーヒーを小さくすすった。
ーーー苦い。そう、私は大の甘党だ。本当なら、コーヒーフレッシュをあと2杯は入れたいところだ。
それでも強がってこれだけしか入れなかったのは、私のささやかな抵抗だと思う。
守屋先生にこれ以上お子様に見られたくないと思う、私のプライドのせいだ。
「はぁ〜なんだかコーヒー飲むと落ち着くな」
守屋先生は背もたれに腰かけると、天井を見つめる。もうもうと、2人分のコーヒーカップから出る湯気が、天井に向かって伸びていく。
守屋先生は、何も知らない。
私が今、どんな気持ちでここに座っているのか。私が今、何を伝えたいと思っているのか。何も知らない。
私は全然、落ち着いてなんかいられない。


