表情が緩んでしまってたのか、守屋先生は困ったように私の顔を覗き込む。
その瞬間、一気に私は現実に引き戻された。


「……あ、はい…!もちろん聞いてますよ!よく分かりました!……でも先生、何で最終的にアメリカは連合国に参戦することになったんですか?今までは中立を保ってたのに、急におかしな話ですよね?」


私は守屋先生が書いてくれた図表を指差す。
色恋に頭は浮かれていても、ちゃんと聞くことは聞いているんだ、私は。

少し得意げに鼻を鳴らすと、守屋先生は感心したように頷いた。


「視点が鋭いなぁ、澤田は!俺、感心しちゃったよ。それはだな…」


守屋先生が再び解説を始めた所で、私は壁に掛かっている時計を見る。時刻は16時20分。私が社会科準備室に入って、30分近く経っている。

きっと先生もそろそろ部活に行かないとって思っているよね……。もっとここにいたいのは山々だけど、これ以上居座って迷惑に思われるのも嫌だし。

私は床に置いていたリュックサックに手を伸ばす。


ーーー先生にガトーショコラを渡そう。


その時、守屋先生が机の上にコロンとボールペンを投げた。その音に反応して、私は思わずリュックサックに伸ばしかけた手を引っ込める。


「ふぅ……ちょっと喋りすぎたな。一旦、休憩しようか」


守屋先生はそう言うと、席を立つ。


「今からコーヒー淹れてくるけど…澤田、コーヒー飲める?」