「あぁ、第一次世界大戦の国関係についてだよな。ここはなかなかややこしいから、つまずく生徒が多いんだよな〜」


守屋先生は、白紙に何やら図表を書き始める。私はそんな守屋先生の横顔を横目で視界に入れる。


ーーー先生が、近い。手を伸ばせば触れられる距離に先生が。他に誰もいない空間で、先生と二人きり。


意識し始めると、急に心臓がバクバクと音を立ててきた気がする。私は膝の上に置いた拳をギュッと強く握る。

平常心、平常心。


「第一次世界大戦は授業でも言った通り、同盟国と連合国による戦いなんだけどね。どうしてこのような対立をしたかというと、それは少し遡って…」


守屋先生は優しいなぁ。本当は部活に行かなきゃいけないのに、生徒一人……私のために時間を割いて勉強を教えてくれて。

今この瞬間は、先生の声も先生の笑った顔も……一人占めできるんだよ?これが、”守屋先生が先生として、生徒の一人である私に向ける顔”だと分かっていても。

それでもこの時間がずっと続けばいいのにーーー。


「………で、同盟国と連合国では遥かに連合国の方に勢力が傾いてしまって、同盟国にとってはとても不利な戦いになったんだけど……って聞いてる?澤田?」