ーーー放課後。
私はリュックサックとサブバッグを持ち、社会科準備室のドアの前に立っていた。
人気のなくなった廊下はしんと静まり返っており、それが私の心拍数を上昇させる。
”平常心で渡しでおいで!後で部活来たら色々聞かしてもらうから!”
ここへ来る前に梨香に言われた言葉を思い出す。そう、平常心。ただ私は守屋先生から勉強を教えてもらって、イベントに乗っかってお菓子を渡すだけなのだ。
コンコン。
2回ノックをすると「どうぞー」とドアの向こう側から声がする。守屋先生の声だ。
「失礼します」
静かにドアを開けると、部屋の一番奥にある席に守屋先生は座っていた。守屋先生は私を見ると、おいでと言わんばかりに小さく手招きをする。
社会科準備室には守屋先生以外の社会科担当の先生達の机もあるが、今は皆不在のようで席を空けていた。きっと部活の顧問だからだろう。
見事に私の作戦通りだ。
「えーと、どの箇所が気になったんだっけ…?って、その前に椅子を用意しないとな」
守屋先生は机の前に立つ私に、少し慌てた様子で折りたたみ式のパイプ椅子を用意してくれた。
実は、社会科準備室まで行って守屋先生に勉強を教えてもらうのは今日が初めてな訳ではない。
なのに、その度に少し不慣れな手つきで椅子を用意してくれる先生を見ては、マンツーマンの指導にあまり慣れてないのかなぁと思う。
そこにまだ教員3年目の初々しさが感じられて、愛おしいとさえ思ってしまう。
私の恋の病はなかなか重症かもしれない。
「えと、1つ目は教科書のここのページです」
パイプ椅子に座り、私は教科書を開く。
守屋先生は元々机に置いてあった白紙を手元に持ってきた。


