ほろ甘ガトーショコラ



「うーん…すぐ答えられることならここで今、教えることができるんだけど、なかなか澤田の質問は視点が深いなぁ。この空き時間だけじゃ答えるのが難しいな。昼休憩なら時間あるけど、どう?」


よし、きた。私は小さく首を横に振る。


「昼休憩は委員の仕事があって忙しいんです。放課後なら時間あるんですけど……先生、忙しいですか?」


委員の仕事なんてない。真っ赤な嘘だ。
それでも守屋先生は私の言葉を信じたようで、腕を組みうーんと小さく唸った。


「放課後は、バスケ部の様子見にいかなくちゃいけないからなぁ……。……でも、勉強熱心な澤田の質問を投げやりにすることはできないから特別に!30分くらいなら時間取るよ。それで大丈夫かな?」

「はい!ありがとうございますっ!」


私は深々と頭を下げる。私の作戦は完璧だ。


「じゃあ放課後、HRが終わったら社会科準備室に来てな。待ってるから」


守屋先生は私の頭に軽く手を置くと、荷物を抱え教室を出ていった。

これは、勉強熱心な生徒のことをおざなりにできない、守屋先生の優しさを逆手に取った作戦だ。我ながらいやらしい作戦だと思うけど、これで守屋先生の放課後の時間を確保することができた。
放課後なら、昼休憩のように廊下をうろつく生徒もほとんどいないだろうし、他の先生達は部活の顧問で席を空けているだろう。

作戦を終え、ふぅと胸に手を当て深呼吸をする。


「どーだった、未羽っ!」


梨香が私の肩に手を置いたので、私は振り返って右手の親指を立てて笑って見せる。

梨香はよくやった!と言うように私の頭をクシャクシャと撫で回した。