「帰りどうすんの?」
「え?」
「もうすぐ暗くなると思うけど」
「あっ、大丈夫。この後塾だから、門の近くに千夏さ…お母さんが迎えに来てくれる」
「あっそ。それならいい」
一ノ瀬くんは、塾か…と呟いてまたボールを拾い始めた。
私は、外をもう一度見てから片付けに戻った。
いつか私は、この暮色を抜け出すことが出来るんだろうか。
はっきりとした、鮮明な夕陽に、あるいは凛としたまっすぐな紺碧になれるんだろうか。
そんな想いが一瞬身体を駆け巡ったけれど、私は見て見ぬふりをするみたいに、心の外に追いやった。
私はそんなこと、望んじゃいけないんだと思う。
最後に一番遠くに転がったボールを私が拾い上げた時、一ノ瀬くんはふと、口を開いた。