小学生の時、両親が離婚した。
理由は直接聞いたことはないけれど、きっとお父さんはお母さんを大切にしたかったんだと思う。
仕事で手一杯だったお父さんは、土日ですら朝早くに出かけて、夜遅くに帰ってきた。だから小学生の頃のお父さんとの思い出はほとんどないと言ってもいい。反対に私の記憶には、お母さんの寂しそうな横顔が焼き付いている。
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一ノ瀬くんが、転がったボールの片付けを手伝ってくれると言ったので、コートの横に置いてきたカゴを拾って、それから二人でまた倉庫に戻った。
律儀に小さな声で数えながら拾う一ノ瀬くんに、私は思わずふっと吹き出すと、彼はうるせぇ、と顔を背けた。
この数十分一緒にいて気づいたけれど、彼はぶっきらぼうだ。なのにとても親切で、どこか繊細なように見える。
不器用な人。
そんな彼を微笑ましく思いながら少し開いた引き戸から外を覗くと、明るい真っ赤の世界は通り過ぎ、すでに薄紫色に染まり始めていた。
「綺麗…」
橙色と薄紫の入り混じる、絵の具では完全に表せないような暮色に、気づけば私は呟いていた。