ダン。



不意に彼がボールをつくのをやめて、こっちに向って歩を進め、何がなんだか分からず硬直している私の横に、しゃがみ込んだ。



「かせ」



ボールを持っていない方の手で私の手首をつかむと、引き寄せてため息をつく。



「な、何?」




驚く私を一瞥し、一ノ瀬くんは突然立ち上がると、もちろん一緒にぐいっと引っ張りあげられた私を連れて倉庫の外に出た。





ずんずん進む彼に引きずられる私は、混乱する余地もなく、なのに何故か、彼の首筋に光る夕陽に照らされた朱色の汗を見て、綺麗だななんて呑気なことを考えていた。



ようやく一ノ瀬くんが手を離してくれた、そこは水道場の前。





「洗え」





ここまで来てやっと一ノ瀬くんのしたかったことを理解した私は、ふと笑みがこぼれる。




「うん。ありがとう」