「湊ー。倉庫から得点板持ってきてくんねー」




「おす」




コーチに呼ばれていた俺は、話が終わるのを見計らっていた先輩から声をかけられた。





ボールの跳ねる音。お互いに掛け合う声。様々な音が響く体育館から外に出ると、こちらもまた蝉の声にどこからか聞こえてくる放送部の発声練習と、騒がしい世界だった。




立て付けの悪い倉庫の引き戸を開けながら、俺は少し離れた後ろの方から聞こえる甲高い声に耳を澄ませる。




今日も彼女の声が聞こえる。







この倉庫と反対方向に進めば4面のオムニコートがある。
周りを背の高い針葉樹に囲まれ、夕方には日に照らされた校舎のオレンジを受けて朱色に染まる。




コートから誰もいなくなり、夏の騒がしさも落ち着く頃。


彼女はいつもそのコートを見つめていた。