離婚してから、お父さんはしばらくの間塞ぎ込んでいた。



仕事は辞めはしなかったけど、以前ほど忙しくなく、家にいることの方が多かった。



母の置いて行った家族写真を見つめ、何も言わずただただ時間が通り過ぎているのを感じているようだった。




今はもうその写真は、私が勉強机の引き出しに押し込んだままにしているけれど。




***





「私ね、小学生の時、お母さんが出ていったの。」




話し始めた私に、一ノ瀬くんは全く見向きもしなかった。ずっと俯いて目を伏せていた。




「お父さんは、私に泣いてるとこを見せたくなかったんだろうけど、それでも耐えきれなくなった日は夜遅くに1人で泣いてた。私は、お父さんのそんな姿今まで見たこと無くて、それに、そんなお父さん見たくもなかった。」



でも、私は何も言えなかった。



どんな言葉もお父さんを傷つけてしまう気がして。




「私が中学に上がる時、お父さんが再婚するって聞いてすごく嬉しかった。もう苦しむ姿を見なくて済むんだって思ったらなんだかほっとして。それで気づいたの。」




言葉を切った。



一ノ瀬くんがゆっくりと顔を上げる。




「私もずっと苦しかったんだって。」