襟の形がかわいいラベンダー色のアンサンブルに黒いパンツをあわせて、鏡の前に立つ。
 おめかししすぎず、普段着っぽく――OK!


 潤くんの両親は来客があると舞い上がってしまうところがあって、この日は特におばさんのほうが喜んでいた。
 センパイ、ちょくちょく遊びに来ていたから、初対面ではなかったし。
 若い子が好きなんだからもー、なんてからかっていたら、包丁で指を切ってしまった。
 瞬間的に水をかけたけど、火傷じゃないことに思い当たり、ティッシュを慌ててたぐり寄せた。
 傷は思ったより深かった。
 流血流血と騒いでいたら、居間でおじさんと将棋を指してた将人センパイが飛んできて、手当てをしてくれた。
 キャベツの千切りのフォローまでした。……あたしよりうまいかも。

 食卓はいつになく賑やかだった。
 ビールで簡単に酔っ払ったおじさんが大通りの舗装工事の業者の入札がどうこうなんて話を振っても、将人センパイは困った素振りも見せず、むしろ興味深そうに聞いていた。
 あたしにはちんぷんかんぷんなオハナシ。
 潤くんは酔っ払い放任主義だから、いつもどおりほとんど相手にしていない。
 おばさんもいつもどおり、難しいことはわからないと首をかしげていた。

 おじさんは真面目に耳を傾ける将人センパイをいたく気に入った様子だった。
 おばさんのほうも同感だったみたい。あたしに向かって、しっかり捕まえておきなよと言ってきた。
 さっきそこでディープなキスしましたとは言えない。