つきあってもいないふたりがするには長すぎるキス。さすがに照れくさかった。
 どういう顔をすればいいのか、どういう顔をしているのか、ちょっと自信がなくって、ふいに口をついて出た言葉が、
「やっちゃった」
 ……だった。

 ああほんとにそうだなって思った。なにげない言葉がいちばんふさわしい。
 ダンスみたく、将人センパイにちょこんとつかまって、あたしはいつまでも、もじもじしていた。
 ふいに将人センパイがすっと離れた。センパイの視線をたどると、あたしの背後のずっと向こうに潤くんがいた。じっと見てた。
 あ。もしかして、見られた?
 そそくさと、将人センパイと距離をとった。

「ええとね、将人センパイに送ってもらったの」
 潤くんの反応が怖くて、まっすぐに目を見れない。
 ね? って感じで将人センパイを見あげた。将人センパイは目で潤くんに軽く挨拶をして、それじゃあと帰ろうとした。

「あ、将人。飯でも食っていけよ。なあ?」
 潤くんが言った。『なあ?』はあたしに向けられていた。怒ってはいないみたい。
「そうそう! 食べてってください。今日はエビフライでーす」
 遠慮する将人センパイを、なかば無理やり、川崎家へ押しこんだ。


 制服を着替えに部屋に行くとき、すれ違いさま、潤くんが超小声で言ってくれた。
「よかったな」
 瞬間の出来事だった。あたしは声に出して頷いた。
 自室のドアを後ろ手に閉める。

 あの将人センパイと、キス、しちゃったよ。

 両手のこぶしをぐっと握った。
 ――よしっ! よし! よおおしっ!
 ジワジワとわいてくる嬉しさを、ひとり、かみしめたよ!