今日の将人センパイは特別だった。
 明日からは、いつもどおりガードが堅くなるに決まってる。
 それがわかっていて、この手を放すことなんかできない。
 熱が出ようが、なんだろうが、かまわない。

「……困ったな」

 これほど将人センパイがあたしのことを考えた日って、なかったんじゃないかな。
 だとしたら……これって、いい傾向ね。
 悩め悩め。そしてあたしを好きになっちゃえ。

「どうすればいい? どうすれば放してくれる?」  
「キスしてくれたら」

 言ったからって、してくれる人じゃない。そんなの知ってる。
『冗談です』って笑って、しぶしぶ離れるはずだった。
 なのに、そうならなかった。


 将人センパイはあたしの手を引きはがした。振り返って、目線を合わせた。かすかに微笑んだ気がする。
 身をかがめ、あたしの体にはどこにも触れずに、ぎこちなくキスをくれた。


 たりないと瞬時に思った。顔を離そうとする将人センパイの首に両手を絡めた。追うようにして、唇を重ねた。
 センパイの体がこわばったのに気づいたけど、そのまま体重を預けて、放さなかった。熱っぽく、そのまま続けた。
 やがて、センパイは傘を持った手でそっとあたしを抱きしめてきた。もう片方の手はあたしの後頭部に。
 そうやって体勢を整えてから――センパイも、応えてくれた。