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 ソフトクリームを買ってくれた見知らぬオジサンは、にこにこしていた。
 遊園地でメリーゴーランドに乗せてくれた。一周するたびに、あたしに向かって手を振ってくれた。
 空へと上っててゆく観覧車のなかで、塔に閉じ込められた髪の長いお姫様の話もしてくれた。あたしのことをそのお姫様みたいだと言った。
 あたしはちょうどお気に入りのひらひらのワンピースを着ていた。本当にそうなのかもしれないと思った。

 オジサンはあたしを迎えにきたのかもしれなかった。だから、なんでもお願いをきいてくれるんだと思った。

 あたしはご機嫌だった。
 日曜日でも誕生日でもないのに、遊園地で遊んで、ソフトクリームもカキ氷も『おなかがいたくなるからどっちかにしなさい』なんて言われることなく両方食べられて、欲しかった魔法のステッキのおもちゃも買ってもらえた。

「このままオジサンの家の子になるかい?」
と言われて、それもいいなと思った。
「オジサンはお父さんの親戚の人だから、会いたくなったらいつでも今のお父さんやお母さんに会わせてあげるよ。もちろん、潤くんともね」 
「潤くん?」
「ああ。あざみちゃんの大好きな潤くんだよ」

 オジサンのした話が『ラプンツェル』っていうグリム童話だったと知るより、数年前──5歳のときのことだ。