ところが――ウキウキしていられたのは、ほんのわずかなひとときだけだった。

「あっ! すげえ」
 将人センパイらしくない、突発的な声。
 生徒玄関から一歩外に出たとたん、あたしの体はこわばった。

 暗い空。月は見えない。降りしきる雨。肌寒くて。
 音がした。ズズズズンン……って、余韻が残った。かなり近い。
 今はたまたま見ずにすんだけど、この天候はひょっとして――。

 血の気がサーッと引いた。
 胸の中に、もやもやと嫌なものが集まってくる。


 嫌な感じ。
 嫌な予感。
 まさか、まさか、まさか。
 大好きな人が、あたしの大嫌いなものの名前を口にした。

「カミナリだ」

 条件反射で見あげた真っ黒な空。そこにヒビが入る瞬間を、見た。
 目の奥がツンとなるくらい、青白く眩しいイナズマ。世界が光って。
 その刹那、あたしの理性、飛んだ。
 隣にいるのが誰か、とか。
 ここがどこなのか、とか。

 全部飛んだ。