「浦和? ああ、2年生だろ。髪の長い子だよ」

 ――桐邦の生徒で『浦和』って名字の女の子。

 桐邦高校の全校生徒数は、千人を越えている。たったこれだけのヒントなのに、わずか5秒で顔まで思い浮かべてしまう潤くんは、ほとんど化け物。さすが『歩くコンピューター』の異名を持つだけのことはあるね。

「その人、有名人なの?」
「有名人ってのは、おまえや大河やオレみたいなヤツのことをいうんだろ。この子は地味だし、とてもおとなしい。……なぜそんなことを?」
「ライバルなの。目下のところ」

 あたしは、昨日将人センパイから聞かされた内容を簡単に説明した。
 潤くんは軽く頷き、長い長いあくびをした。

「いずれにせよ、あざみのほうがかわいいよ」
 潤くんはあたしにめちゃめちゃ甘いから、そう言えるんだよ。
『地味でおとなしい』だなんて、あたしとは対極じゃん。


 朝の4時から起こされた潤くんは、不満のひとつも漏らさずに、自室のパソコンを立ちあげてくれた。
 項目を選び、やたらと長いパスワードを打ち込む。私用データベースなのに、そのセキュリティーはなんなの? ……別にいいけど。
 カード型のデータが並び、生徒の集合写真が画面に現れる。角をクリックすると、ひとりの顔がアップになった。
 黒目のはっきりした、長い黒髪の色白の女の子。