体育祭のあとの学校は、変に浮き足立っていた。
 席に着いたあたしのところに、同じクラスの、でも数えるほどしか話したことのない女の子が4人、やって来て、こう宣った。

「ねえ、佐藤さん……。前から聞いてみたかったんだけど、実のところはどっちが本命なわけー?」


 こういう質問には慣れてる。ただ、どっち、というのに引っ掛かる。
 人聞きの悪い言いかたしないでよね。ふたまたかけた憶えはないぞー。


「んー……。潤くんの読みでは、明光学院かな?」
 うーん。あたしのボケもまだまだ甘いなあ。
 千晴センパイくらい妙なトコ細かいボケとか、潤くん並の傲慢なボケとか、見習わなくっちゃ!
「サッカーの話じゃなくってー……大河先輩とー、平塚先輩のことっ」
「生徒会長ってことは、ないと思うしー」

 なんだなんだ?
 もしかしてこの人たちは、サッカーの大会であたしが学校に来ていない間、ずっとこんな噂をしてたの?

 あたしはこういうことを陰でこそこそ言う人たちが大嫌い。なので、相手にしないことにした。
「……このまえ、終わったばかりなのに、また生徒会の役員選挙があるの?」
「とぼけないでよー。みんな、知ってるんだから。三角関係なんでしょ?」

 あたしの頭の中は真っ白になった。
 それを、その表情の変化を『動揺』とみたらしい。

「やっぱそうじゃん。かまととぶっちゃって」
「シッ……で、あざみちゃんはどっちが好きなの?」
 このコたちには『あざみちゃん』呼ばわりされたくない。

「秘密にしないでさー……打ち明けると楽になるよ」
 あんたは刑事かい?

「絶対、人には言わないから……ね?」
 そう言う人が真っ先にばらすんだから。

「じゃあ……」
 言いかけて、少し考えた。
 否定すれば、このコたちはあたしを悪く言う。噂も消えない。
『将人センパイ』と言えば、センパイに迷惑が掛かる。噂は当然、盛りあがる。
『大河センパイ』と言えば……どうだろう、大河センパイでも迷惑するのかな?
 試しに言ってみようか。

「あの……」
 ──やめた!
 ばかばかしい、こんなの。
 だってそうでしょ? 肝心なのは、自分の気持ちなんであって……誰が誰を好きかなんて、関係ないはず。