乾いた風に乗って、ホイッスルがあたりに響く。
 芝の上、赤いユニフォームの選手たちはうなだれ、水色の軍団は抱き合って喜んだ。
 そして、観衆の声。
 あたしも叫んだ。

「勝ったああっ!」

  隣には、ハンカチを握り締めたまま、でもホッとした笑顔の千晴(ちはる)センパイが、立ち上がっている。
「ふー。いくらサッカーが1点ずつしか獲れないスポーツだっていっても、終わるまでは気を抜けないねー」
「最後、危なかったですもんね。大河(たいが)センパイが無理にシュート打ったから、カウンターくらっちゃって……」
「結果オーライ、結果オーライ」

 グラウンドの桐邦(とうほう)イレブンは、相手チーム――柳第一高校の選手の健闘をたたえ、握手をして、ベンチに向かった。
 みんなが笑っているのが、あたしたちのいるスタンドからもわかる。
 控え選手や、応援組にまわった部員、先生も勝利をかみしめている。
 全国高校サッカー選手権大会、県予選の決勝トーナメント一回戦。
1対0――前評判どおりの結果とはいえ、やっぱりうれしいな。

「わたしたちも下に降りよう」
 千晴センパイが言った。
 実はそのひとことを待ってたんだ!
 観客席だとグラウンド全体を見渡せるけど、もっと近くに行きたいし……実際、行けるし。
 だってあたしたち、桐邦サッカー部のマネージャーだもんね。

 ところがもともと慌て者のあたしはドジを踏んだ。
「ぎゃあ」
 とっさにでたのは、色気もかわいげもない悲鳴。
 8ミリビデオの三脚を蹴って、こけちゃった。カメラもろとも。
 応援しに来た女の子たちが前の席に押し寄せるのを見て、焦ったんだよう。
 誰も見ていなきゃいいんだけど……と思うときに限って、見られていたりする。