「なにがあった?」
 毛利くんが尋ねた。
 私は返事をするのも面倒だったけど、けんかをするのはもっと面倒だったから、正直に言った。
「浮気された」
 毛利くんは吹きだした。
「それは災難だな」
「うん」

 彼は隣にすとんと座った。
 私も、座った。
 知りたいとも不思議とも思わなかったことを聞いた。

「毛利くんはなにしにきたの?」
「優しい言葉をかけにきた」


 私は眉をひそめた。
 正面を向いていたけど、いつでも逃げられるよう、左側に意識を集中させた。
「――そうは言っても、信じてもらえないだろうが、実際そうだから。ほかに言いようがない」
「そう」
 風が冷たくて、また鼻をしゅんとならした。

「ここさ、杉の木も多いんだ。だから花粉症の潤は絶対に近づかない」
「……そうなの?」
「オレ、小学校五・六年のとき、あいつと同じクラスだったんだ。春先のあいつは鼻も目も、ぐしゃぐしゃに真っ赤にしてたよ」
「そう」

 そのとき、風が吹いた。
 風上にいた私は、条件反射で首をすくめた。

「寒いな」
 言って、毛利くんは私の肩を抱き寄せた。
 私は――振り払わなかった。