今年のバレンタインデーは日曜日なので、みんながフライングして、12日の金曜日にチョコを持ってきた。
 ――で、わたしの場合はこうだった。

 放課後、生徒会室の明かりが見えたので、もしかしたらと思ってのぞいてみると、潤くんがいた。
 他には誰もいない。
 潤くんはパソコンをかまっていた。
 制服を新しくすることになったので、そのための事務処理をここ何日かしていたっけ。
「……誰か来るの?」
 潤くんは背中を向けたまま、首を横に振った。
「チョコ、いっぱいもらったでしょ?」
 親指で右側をさした。
 見ると、段ボール箱が……みっつっ!? 
 しかもひとつは、業務用トイレットペーパーの入っていた大きな箱だから……中身は八十個くらいあるかも……。
 今度から潤くんを『バレンタインの鬼』とでも呼んであげよう。

「十数人はくれるだろうと、ふんでいたけど……まさかこれほどとはね」
「どうやって持って帰るの?」
「タクシーでも呼ぼうと思って。何回かにわけて持ち帰るって手もあるけど、見せつけてるみたいで嫌だし」
「どっちもどっちだと思う。……全部でいくつ?」
「九十二個」
「……お店、開けちゃうね」

 そうこう話しているうちに、潤くんはパソコンの電源を切った。
 もう帰れるのかな?
「……ひょっとして、待っててくれたの?」
 潤くんがやっとふりむいて、そう言った。
 私はおやっと思い、言おうとしたら、
「あ、ごめん。そういや一緒に帰るんだった」

 ふたりで帰るのは、そう珍しいことじゃなかった。
 生徒会の仕事があったときは、いつも一緒だったし(たいてい他の役員もいたけど)。

 約束を忘れちゃうくらい疲れているんだ、と思った。
「私もパソコン使えたら手伝えたんだけどね」
 さっぱりダメだからね。
 わたしだけじゃない。
 生徒会役員のうち、潤くんがいちばんの熟練者なので、どうしてもまかせっきりになってしまう。
「私にできること、ある?」
「じゃあちょっと抱きしめさせて」
「うん。――えっ!?」
 びっくりして部屋の出入り口まで避難した。
 うっかり返事をしてしまった。
 潤くんはなんでもなさそうな顔をして、
「……言ってみただけ」
 どこか、つまらなそうにつぶやいた。
 やっぱり疲れているんだ、と私は思った。