「――で? それからどうなったのっ?」

 受話器の向こう、未歩の無邪気な声がする。
 興味津々、瞳はらんらん。顔を見なくても気配でわかる。
 そうだ。この子はこういう子だった……。
 失敗したかなあ。

「家まで送ってもらった。以上」
「以上、って……。あっ、そっかっ。別れ際にギユーって抱き締めてもらったとかっ?」
「ギューもなし。チューもなし」
「えええっ? チューもっ? ……あ、ううんっ。ウサギでいいのよっ、パパっ」
「……ウサギ? パパ?」
「あっ、ごめんっ。こっちのことっ。今っ、うちのパパ、年賀状書いててっ……あたしがギューとかチューとか言ったから、混乱させちゃったみたいでっ」
 ここの家は……。
「――えっ。ちょっと、未歩。あんた今、まわりに家の人がいるのっ? そんなとこで私は潤くんとイヴをすごした話なんかを……」
「しているんだなーっ。あははっ。……あれっ、今の音っ、なにっ?」
「今……恥ずかしさのあまり、ベッドのうえを転がって往復したの……」
「あはははっ。かわいいよっ、早智子ちゃんっ。それ川崎くんのまえでやってみなよっ。ほれなおすからっ。……えっ? ああ、あのねっ、早智子ちゃんがっ……」

 まだ言うかっ、この子はっ。
 家族のみなさんにっ。人の色恋ざたをっ。
 ――って、私、未歩の口調が移ってるっ?(ああ、まただ……)
 このままじゃ悔しいので、電話を切る直前、私はささやかな嫌がらせをした。

「そういうこと言うなら、潤くんと初詣に行った話なんか、してあげない」
「えっ!? それ気になるっ! それはそれで気になるよっ! 早智子ちゃんっ!?」