まずは浮く練習だな。進まなくていいからその場で……あ、違う、浮こうとしないで、脱力する。そうそう、いいよ、そんな感じ。バタ足してみて……足の動かしかたは悪くないよ。でも体に余分な力が入ってるな。……だいじょうぶだって。肺に空気があるから、体は浮くんだよ。それから息は吸うことより吐くことをしっかりやるんだ。吐かなきゃ吸えないだろ。早智は吐ききってない。空気なんていつでも吸えるんだからさ。息継ぎ? どっちだっていいよ。好きなほうでやっていいから。オレは左だけど。……意地っ張りだなあ。さっきまで左だったくせに。なんだかぎこちないぞ。よし、左だ、左。左にしろ。だって早智、顔をあげすぎだよ。回数じゃなくて、面積っていうのか? 水面から顔をいっぱい出すと、上半身が浮くから足が沈むんだよ。それが極端になると、力んでしまうし、なにより推進力が落ちる。じゃあもう一回、オレの手につかまって――……。


 潤くんの指導のかいもあって、クロールはずいぶんと上達した。
 補習の最終日には、とうとう五十メートルプールの真ん中、太い青の横ラインまで泳げたの。やったあ!
 ところが泳ぐのをやめたとたん、真下に伸ばした足は底に届かず、水をかいた。
 その場所は最も深いところで――体がぐんっと沈んで、私は危うくおぼれそうになった。
 すんでのところで、どこかから腕が差し出され、私は救われた。

「せんせーっ! 早智が二十五メーター、泳いだよー」

 潤くんだった。
 私は潤くんの肩にしがみついた。
 誰よりも頼れる人を見つけた。