「水が怖いの?」

 さっきからずっと隣にいるなあとは思っていたけど、私のことを見てたのね。
 このヒマ人!
「平気だよ。海じゃないから流されないし、先生もオレらもいるから」
 そういうことじゃないのよ。
 泳ぎの得意な人間には、私みたいなカナヅチの気持ちは一生わかんないのよ。

「もっと力を抜いてさー……」
「うるさいわねえ。あっちに行きなよ! 全国大会はどうしたのっ!?」
 すると潤くんはコースの先に目を向けて、
「とりあえず、あっちに全国大会はないな」
 憎ったらしいことを言う。
 なんかこの人(って、潤くんのことなんだけど)水泳の県大会で優勝したらしい。
 全国大会に行けるのだ。それは立派だ。おめでとう。

 かく言う私はもっかのところ、水泳の補習中だ。
 二十五メートル泳げない人、体育の出席日数が少なかった人が、水泳部からプールを半分借りて、夏休み期間に特訓をするのだ。
 泳げた人は、次からは参加しなくていいのだ。
 ちなみに私はちっとも上達していないのだ。
 このままだと最終日までずっと参加しなくちゃいけないのだ。
 すごく嫌だけど、泳げるようになるわけないから、もう腹をくくっているのだ。
 諦めているから、言葉づかいもおかしいのだ。
 そして、泳ぎの達人にもケンカを売るのだ。


「……ジロジロ見ないでよ、エッチ」
「おう。男はみんなエッチだ。悪いかよ」
「悪いに決まってるでしょ、バーカ」