私はそれ以上、言葉を続けることができなかった。
未歩は泣いていた。私のすぐ隣を、私と同じ速さで、ゆっくりと歩きながら。
未歩の家は、角を曲がって二軒目だった。
犬の鳴き声が聞こえた。コロの鳴き声が聞こえた。
私は歩くのをやめ、未歩の腕に触れ、言った。
「ウソだよ。こんな『もしも』は、ありえない。ごめん、未歩……」

空はいつの間にか、夕焼けに染まっていた。
人通りはほとんどない。
隣家の塀から顔を出している、ひまわり。思いだしたように鳴きはじめた、ヒダラシ。
未歩は顔を真っすぐ前に向けたまま、涙を流していた。視線の先には未歩の家がある。
でもそのさらに向こうを見つめているようだ。
手の甲で頬の涙をぬぐい、張りついた髪の毛を横に流すと、未歩はようやく口を開いた。

「立ち直れないかもしれない。そんなことになったら。……だけど、許すっ」

えへへ、と私に笑いかけた。
私は未歩のこと、ちゃんと見つめることができなくなって……未歩の、明るい桃色のサンダルを見てた。
そのままの姿勢で、私は言った。
「ほんとにごめんね。今の話、忘れて」
未歩はなにも言わない。
知らない人がすぐわきを通りすぎていく。きっと、なにをしているんだろうと思ったはず。
しかたなく、私は顔をあげた。ヒダラシが鳴きやんだ。
「……早智子ちゃんは、いつもそんな悲しいことを思っているの?」
白いウサギの目はどうして赤いの、と尋ねる幼堆園児のような口調で、未歩は言う。
……そっか。私の物の見かたは、未歩のフィルターを通ると『悲しいこと』として映るのか。
私が返事をするよりも早く、未歩は未歩流の答えを探しだしていた。

「忘れないからっ。早智子ちゃんが、打ちあけてくれたことっ。……悲しくても、全部っ」

 
その晩、未歩はコロと一緒に眠った。
後日、私はそれをコレキヨ君から聞かされた。
自分のことを、少し、嫌いになった。