「早智子ちゃん。川崎くんに言われるがままに、立候補するのっ?」
 驚異的な速さでアイスを食べ終えた未歩が言う。グラスに冷たい紅茶を注ぎながら。
 私はそれを受け取って、ひとくち飲んだ。

「そんなに甘くないわ」
「あ、ガムシロップほしい?」
「紅茶のことじゃないわよ、立候補のほう。条件を出したの。テストで順位をあげてみせろって」
「どのくらい? まさか、早智子ちゃんを抜けとか?」
「……学年で30位以内」
「ふうん。川崎くんって、中間テストはどのくらいだったの?」
「203人中、181位」
「ひゃ……ひゃくはちじゅういちっ!? そんなに悪……よくなかったんだ」
「悪いって言っていいでしょ。181なら」

 未歩は私をしげしげと、まじまじと見つめて、言った。
「甘くなーいっ」
「……ガムシロップあげようか?」
「違うでしょっ。もう、意地悪なんだからっ」
 私だって、負ける戦はしたくないもん。このくらい、当然の権利だわ。

 それに――川崎くんにはどこか、困難を楽しんでいるところがある。
 なんとなく、そう感じた。