「オレ、生徒会役員になろうと思うんだ」
 あのとき――更衣室から急いで戻ったばかりで、まだ息を弾ませているわたしに、川崎くんはそう言った。

「なりたいのなら、なってみたら? 誰も止めないよ」
 私は言った。
「……冷たいなあ」

 休み時間をあわせても二十分――そのあいだに着替えろというのは、メチャメチャきつい。
胸元まである髪も乾かせない。ちょっとだらしないけど、女子はみんなやっているので、肩にタオルをかけて六時間目に臨むことにする。
 男子は全員いるけど、女子は半分くらいしか教室に来ていない。
 先生は教卓の前で、近くの生徒と雑談して、みんながそろうまで待ってくれている。
「ああ。私に推薦人になれっていうの? いいよ」
 推薦人というのは、立会演説のときに役員候補の推薦理由を述べる人のこと。
 候補者ひとりに推薦人ひとりをつけることが義務づけられていたと思う。
 川崎くんは首を横に振った。
 しめった前髪が艶を放って、揺れる。

「そうじゃなくてさ、柏さん。……オレと一緒に、立候補してくれっていってるんだよ」
「嫌よ。なによそれは」

 わけがわからない。
 ひょっとしたら、私自身が役員をやることになっちゃうかもなーとは、思っていたよ。
 万年クラス委員だし、小学校でも児童会の書記を務めたっていう実績があるし。
 だけどそれは推薦されたから務めたのであって……この人がいるからやってみようとかって気持ちは、まるっきりなかった。
 どうして私を誘うのよ。理由は?
 それに、こんなことは言いたくないけど……。

「ねえ、立候補するからには、当選したいじゃない? ああいう選挙って、学業の優秀な人が票を得る傾向があるから……。川崎くん、難しいんじゃない?」

 勉強がすべてとは言わないし、考えたくもない。
 でもほら……イメージってものが、あるでしょう?
 そういうと、川崎くんは、
「じゃあ、今度の期末テストでいい点を取れば、柏は考えてくれるわけだ?」
「………んー。まあ、立候補は自由なんだし……やってみなくちゃわかんない、かな」
「よし。じゃ、オレが生徒会長で、柏が副会長ね」
 はっ?
「待ってよ。川崎くんが立候補したいのなら、そうすればいいって言っているだけであって、私は……」
 にやっと笑って、川崎くんは、
「うなずいたじゃん。男に二言、なーし!」
「私は女よっ」
 嫌だ嫌だ……と、ごねてみたけれど、あとの祭り。