センターフォワードというのは点を取る役なので、案の定、シュートの練習になった。
 ゴールやキーパーを挟んで、私と航平くんは向かいあう。
 航平くんの放つすべてのシュートが、ゴールネットに突き刺さる。
 ひとつも外れないし、ひとつもキーパーに触れない。
 ボールが硬い意志を持ったように、こちらへ向かい、そしてゴールに飛び込んでいく。
 さっきの男の子にここはボールが来るから危ないと言われたけれども、私にだって意地がある。

 ここから動いたら、多分私の負け。
 だから動かない。
 引いたりしない。
 決して。


 高い軌道を描いてボールが追ってきて、私の顔のすぐ右を横切った。
 風が通りすぎる、ビュッという音がした。
 航平くんの顔にかすかに動揺の色が見えた。
 私は逃げなかった。身じろぎひとつしなかった。
 しかたなく、航平くんが駆け寄ってくる――私はこのときを待っていた。
 航平くんが口を開くより早く、私は言った。

「あのあと、あちこちに電話をかけたの。初めは未歩、その次が梓ちゃん、柳さん、修子さん、真島ちゃん……。噂の広がったルートをさかのぼってみたの。最後にでてきた名前は、誰だったと思う? 小田原景子? ……ううん、違った。それは……」
「ずいぶん、まわりくどい言いかたをするんだな。はっきり言えばいいじゃないか。『噂を流した張本人は、毛利航平でした』って」

 目の前のこの人は、女の子に人気のサッカー部のフォワードで、かっこよくて、優しくて……それから、なんだっけ?
 私には男の子を見る目がないのかもしれない。
 航平くんは、いつかの柔道部の三年生とよく似た表情をしていた。
 卑屈な笑みを浮かべていた。
 本当に怒ったときほど、私の頭は冴えわたる。

「私ね、嫌いっていう気持ちは、好きなものに裏切られたときにしか、わきおこらないと思ってた。でも……違ったみたい」
 火元はここだ。
 攻撃の対象はこの人だ。
「つきあっていたときからあなたのこと、好きでも嫌いでもなかった。けど今は……大嫌い」
もう知らない。
 私はこの人の全部を否定する。
「私、あなたを軽べつするわ。……毛利くん」