結論からいうと、私の要求した予算は認めてもらえたんだけど、あとで生徒会役員の人や、口を利いたことのなかった三年生から、言われちゃった。
「君、勇気あるね」
「あの柔道部の本郷って、かなりやばいんだよ。これからしばらくのあいだ、嫌がらせとか、気をつけたほうがいいよ」
「あたしは内心、拍手してたわ。あいつにしたって、誰でもいいから弱いものいじめがしたかっただけなのよ。ばっかみたい」
 とにかく私は、未歩がさらし者にされたことが悔しくて、すごく悔しくて……。
 まわりとは違う意味で興奮していたので、水泳部の部長代理として川崎くんもそこにいあわせていたなんて、知らなかった。
 三年生が大勢いるのに二年生が副部長だなんて、水泳部ってどうなっているんだか。

「りりしくてかっこよかったなあ。勇ましかったなあ」
 そう言って、ニヤッと笑う川崎くん。
 実はあのとき、同じことを未歩にも言われたのよね。
「やめてよ。私、ほんとにムカついたんだから」
 さいわい『本郷センパイ』からの嫌がらせは、まだ受けていない。
 でも、あのセンパイ、たち悪そうだったからねえ……。


 悪いと言えば……川崎くんと私ね、中間テストの給果が記入されている、家庭連絡票を見せあったの。
 私、通知表とかテストの点数とか、家族以外には絶対に見せない主義だった。
 だけど川崎くんに、
「自分でどのくらいがんばったのか、わかってるだろ? だったら、はずかしがる必要ないじゃん。堂々と見せればいい」
と言われて、つい……渡しちゃったのよね。
 私、学年で四番だったから、どうせ順位は掲示されていたしね。

「……すげえ。数学理科社会、百点だ」
「川崎くんも。数学理科社会、あわせて百点よ」
「国語がよくないなあ。母国語だろう?」
「文語の時代の人間じゃないからね。言語は日々、進化しているのよ」
「……オレのはまったくいいとこなしか?」
「連絡欄に気になることが書いてあるわ。『答案の余白に描かれた絵は、合格点でした』……あなた、なに描いたのよ?」
「フランシスコ・ザビエル」


 航平くんを見かけることもあった。
 たいてい私は未歩と一緒だったし、彼のほうも友達といたから、ごくごく自然にすれちがった。
 航平くんと小田原景子の組みあわせには、まだでくわしていない。
 もし会ったら……ほほえんで声をかけるのが、大人の態度なのかしら。
 それとも、傷心の面持ちでなにも言わないのが、彼に恋していなかった私からのせめてもの優しさなのかしら。
 恋愛経験の少ない私には、どうしたらいいかわからないことが多すぎる。