「あのっ、それは……」
 未歩がその場に立ちあがった。
 その姿を見るなり、柔道部(仮)の男は冗談めかして言った。
「食ってばっかいちゃ、俺みたいに太るよ……って、あんたにゃシャレにならんわな」

 ほんの少数ながら、失笑する声があった。
 未歩がぽっちゃりした体型だったからだ。
 柔道部の男にしてみれば、速攻で出足払いをかけたつもりなんだろう。
 効果はてきめんだった。
 未歩は赤くなって、言葉もだせずに硬直している。口に手をあてて、泣きそうになってる。
 ……未歩、もういいよ。座ってよ。
 あとは私がやるから。


「調理部。繰越金の一万四千円のみでは、今期の活動に支障をきたすのでしょうか? もう一度、検討してください。……よろしいですか?」
 議長は未歩に優しく了解を求めた。
 未歩がうなずくより早く、私は小さく手をあげて起立した。
 議長の隣の生徒会長と目があう。
 この人はさっき、柔道部の男の発言に顔をしかめていたっけ。
「二年一組ですね。なんでしょうか?」
 フレームのないメガネをかけた、実直そうな会長が声をかけてくれた。
 全員の視線を感じた。
 すぐ前に座っている、同じクラスの委員の阿部くんまで、体をこっちにねじっている。
 なにごとだ、と、その目が言っている。

「調理部の予算については、少し説明があります。……申し遅れました。彼女は調理部部長代理です。部長は私です。この予算ですが……」

 私は簡潔に部費のつかいみちを述べた。
 部費は調理の材料を買うときに立て替えているだけで、材料代は個人負担だということ。
 決算の直前に部費で調理用具を買い、家庭科の授業でも利用していること。
 繰り越しになった金額が大きいのは、来年オープンレンジを購入したいので、部費をそのままつかわずにおいたのだということ。

「いたずらに高額の部費を要求しているわけではありません。どうか、この予算でお願いいたします」