――それから。
 私は例の噂にはいっさい耳を貸さずにいた。
 私に直接なにかを言ってくる人はいなかった。
 ただ、私が近くにいるのに航平くんと小田原景子の話をこれ見よがしにしはじめる人がいて、なんだか滑稽だった。
 よほどヒマなのね。

 同時に『無関心』呼ばわりされないように気をつけた(特に川崎くんには!)。
 クラスのみんなと打ち解けるように心がけた。
 なんだか私、他の人と比べると自分をあまりださないタイプだったみたい。
 やってみて、これがけっこう勇気のいることだと気づいた。
 相手から『嫌』とか『ダメ』とか、拒否されるかも……って考えたら、思ったことの全部を言えなくなる。
 たとえるなら、小学生相手にキャッチボールをするプロ野球のピッチャーの心境ね(野球のたとえが多いかな?)。
 弱く投げれば本気じゃなかったと怒られるし、強すぎれば相手を傷つけてしまう。
 打ち解けるってことは、イコール、本気ってことなのね。
 私、タテマエ、多かったみたい。
 
 それでも、一部の子からこんなふうに言われた。
「最近、柏さん、変わったねー」
「なにか心境の変化があったみたいだけど、どうしたの?」
 ついこのまえまで私の色恋沙汰の噂をしていた彼女たちが、なにがあったのかと尋ねるのにはさすがにあきれたけど、現実ってば、おおむねこんなものよね?


 隣の席の川崎くん(結局隣に落ちついた)ともうまくいっている。
 うまくいっているんだけど……。