「はぁ~…」

「みおたや、ため息大きすぎ~。また隣の席のさわやかくんと何かあったの~?」

ほら、あれ見て元気出しなよ~。
そう言われて指さされた方を見ると死屍累々となった花梨がじゅうたんの海に沈んでいた。

いや、何があったし?

「見てのとおり~、推しが死んじゃって~ついでに心も死んじゃった基本的なオタク女子の死に際だよ~。」

oh…こいつぁひでぇや…
心中はお察しする。

「うっ…うっ…レオン…私のレオンが…」

花梨は自前のレオンくんクッションに顔を埋めながらなお、おいおいと泣いている。
相当に好きだったらしい。分かる。レオンは軽率に推せるイケメンだった。
にわかの私でもちょっと沼るくらいのイケメンだった。

「元気だしなよ~、レオンもさ~仲間を庇って死んじゃったんだから、無意味な死ではなかったよ~?あの流れで悲しみの力で覚醒する主人公を見守ってから逝く師弟愛が胸熱だったっしょ~。」

今日もメイクがばっちりキマッた美羽は手元のウォークマンでそのレオンが出ているアニメの劇中歌を聞いている。
件の、レオンが死ぬシーンで流れた女性ボーカルのもの悲しい歌声だ。
悲しみにくれる心とそれでも前を向かなくてはならない、主人公の思いがありありと表現されたアニソン界屈指の名曲とされている。また、この曲が収録されたシングルにはこの曲のカップリング曲も収録されておりそちらには弟子をおいていく師匠レオンの心情が語られており、そちらもファンの間では隠れた名曲として有名である。

どちらも、ファンにとっては涙なくしては聴けない曲であった。

「あ~…!美羽ちゃん!美羽ちゃんやめて!その曲を今っ!今かけないでちょうだい!またっ…また涙が…っ!うぇえぇ~!なんでしんじゃったのレオン~~!」

そう言って花梨がまたじゅうたんの海に沈む。
ああ…流れるように追い討ちがキマッてしまった…。
これはしばらく動けそうにないな…。

「そういえば~?みおたや、あのさわやかくんと何か進展あったの~?」

「はぁ?有るわけないじゃんよ?」

「う~ん、やっぱりか~。女子力底辺のみおたやにもようやく春が来たかと思ったんだけどにゃ~。」

何言ってんだ美羽ちゃんよ。友情はともかく、恋愛は二次元のもんだろ?

「ん~、さっすがみおたや~。女子力の底辺~!さわやかくんのアピールにひとっつも気づいてなかったか~。」

あぴーる??
アピールってなんぞや???
某アイドルゲームのボーナスポイントか何かか??
それにさわやかくんが関係してんのか??
確かに乙女ゲームに居そうな見た目はしてるよな、あいつ。
教室ですれ違ったときのこと?あんなん暇をもて余したイケメンの遊びだろ??

「あいつ、とかさわやかくんってアダ名で呼ばれてる間は見込みゼロだにゃ~。まぁ、がんば~。」

お、おおう?
何か応援されてる??
ちょっと意味が分からんけどまあいいか!

「ところでさ、美羽ちゃんなんで今日は語尾がネコ風なの?」

「今日の気分だよ~」

「そっか~」






「ってことだからさ~、蒼真くん~。私から言えることはがんば~、だよ~?」

放課後の校舎裏、人通りの少ないその場所で密会は起こっていた。
夕暮れに映る2つの人影。
一人はギャルっぽい派手な少女、もう一人は黒髪の感じの良い青年だ。

青年の口元には笑みが浮かんでいる。

「ありがとう、美羽さん。とっても参考になったよ。」

「いいよいいよ~。友達に春が来るとか~めっちゃ嬉しいし~?美羽も万々歳っていうか~。」

「…そっか、じゃあさ。また頼んでもいい?」

少女は2つ返事で快諾する。

「いいよ~。暇だし~。」

青年はその言葉に笑みを深めた。