沈黙の4月・忍耐の5月を終えた私に、神はまだ困難を与えたもうのか!

6月の教室。
今日もじんわりと蒸し暑い日々が続いているし、窓の外はうんざりするほどの雨と曇天が広がっているが…。
隣の席からはキラキラしい涼しげなオーラが漂ってきている、そして私はちっとも涼しくない。むしろ胃が痛い。

あまりにも自己主張が激しいのでちらりと隣を流し見ると、丁度相手もこちらを見ていたらしい。ばっちり目が合ってしまった…。
軽く手を振ってにっこり微笑まれる。
まさか手まで振られるとは思っていなかった。慌てて目をそらしたけれど回りの女子の目線が痛い。そして怖い。

私はその時間中いたたまれなさと女子の嫉妬と戦った。長い戦いだった…。


授業終了のチャイムが鳴る。
お昼休みだ。やっとあの視線から逃れられる!
疲れた…女子の嫉妬こあい…。
こちとら地味なオタク女子なんだよ!底辺を生きてるんだよ!ギリギリでいつも生きていた((ry

今日は部室で食べよ…教室とか無理み…。
つらたん…(せいいっぱいの女子高生感)
よろよろと干からびたゾンビのように席から立ち上がり教室を出ようと最小限の動きでこそこそと歩いていると、扉のすぐ手前で何かにぶつかった。
ヤバい、前をちゃんと見ていなかった。
誰にぶつかったんだろうか?
どちらにせよ、すぐに謝らなくては…。

顔を上げようとした瞬間だった。

「大丈夫?美桜さん。俺前見てなくて…」

よりにもよってこいつとぶつかったのか!私は!
思いの外フローラルな良い匂いがしやがる…!

「おーい、蒼真(そうま)。後ろ詰まってんぞ~。早く入れよ~。」

「そうだそうだ~。ってお前、教室の前でイチャイチャしてんじゃねぇよ!」

「あれ~?その子隅っこの地味子ちゃんじゃね?蒼真の隣の!」

「おっ、マジか。なんで抱き合ってんの?もしかして付き合ってるとか?」

バッカお前~!余計なこと言ってんじゃねぇぞ、このチャラ男が!二股かけてんのここでバラされてぇのか!オタクの情報網舐めんなよ!こちとらネタ集めに校内舐めるようにかけずり回ってんだよ!!!

「あはは、違う違う。ちょっとぶつかっちゃっただけだよ…ごめんね?美桜さん。」

ぶつかった拍子に抱き止められた肩をグッと支えられて起こされる。
身長差で顔は見えない。
そのまますれ違って教室を出ようとしたときだった。

「でも俺、美桜さんとなら勘違いされてもいいかな…って」

小さい声。
すれ違った私くらいにしか聞こえなかっただろう。思わず顔を上げると普段は見ないような意味ありげな顔をしていて。
バッと通りすぎた後ろ姿を振り返るけれどそこにはいつも通りのキラキラしい彼がいるだけ。
私は脱兎の如く教室を後にした。
あまりの速度に回りに不審がられたけれどそんなものは知らない。

(何だあいつ、何だあいつ、何だあいつ…!!)

部室の前で膝を抱えてしゃがみこむ。
きっと顔は真っ赤に違いない。
だってこんなに頬が熱いんだから。




(あっ…お弁当…置いて来ちゃった…。)