(変なの)



葉月くんって不思議な人だ。



普段から男の子に全く近付かないせいなのか、近くに居るだけでもそわそわして落ち着かないのに、葉月くんに対しては全くそういうのはない。



むしろ、すごく自然体な自分がいる。




その時、私はふと彼にある疑問を持ち掛けた。



「ねえ」



「ん?」



「もしね、もし人の心が聞こえる人がいたらどう思う?」



「人の心?」



我ながら、おかしな質問だとは思う。



でも、彼は嫌な顔をしないでちゃんと答えてくれた。



「それは、すごいね。じゃんけんの時とか、解らない問題とか楽だよね。ちょっとせこいけど」



「そう、だね」



まあ、妥当な回答なのだろう。



葉月くんは穏やかな口調で続けた。



「でも、やっぱ嫌だな。見透かれているみたいでさ」



「!?」



彼は率直な意見を述べた。



誰もがそう思うこと。



だけど、葉月くんから言われた言葉に私はひどく心に突き刺さった。



それと同時に、葉月くんからそのような言葉を言ってほしくなかった、と微かに思った。



「嫌、だよね。ごめんね、変な事聞いて…」



思わず自分が恥ずかしくなった。



こんなこと聞いてどうしようと思ったのか、自分でもよく分からない。



ただ、何かを言って欲しかったんだ。




そして、そのまま鞄を持って教室を出ようとしたら——。



「ねえ、美沙樹」



「!」



葉月くんの呼び止める声に、彼の方をそっと振り向く。



「辛いことや悩み事があるなら、少しぐらい聞いてあげるよ」



(えっ)



「なんか悩んでそうだからさ」



もしかして、気付いて?



いや、それはないだろう。



でも…。



「ありがとう」



葉月くんの優しさがなんとなく嬉しく感じ、やんわりとした口調でお礼を言った。



「うん、また明日」



「うん」




そして、私は少しだけ早足で教室を後にした。



微かな鼓動を感じながら——。



彼と出会った事はそれは、偶然だったのかたまたまだったのか、でも確かに惹かれるものがあったのは確かにあったんだ。



だけど、この時はまだ気付いていなかったのかもしれない。