「………」



「ねぇ…響」



私を呼ぶ声に少し沈黙があった。



「何?」



私は不安そうにお母さんに相槌を打つ。



「もう、響を守る事…できなく、なっちゃった」



「えっ」



「はは…引っ越すのも、無理になっちゃったね」



「………」



昨日、お母さんは引っ越そうと言ってくれたのは、美実さんから逃げる為だったんだ。



「でもね、ちゃんとお父さんと、他の所…に、行って…よね」



(!?)



「な、に言ってるの?お母さんも一緒に行くんだよっ」



分かってる、もうダメだって分かってるんだ。



それでもやっぱり嫌なんだ。



放った途端に、泣きそうになっていた涙が頬に流れた。



私の言い放った言葉にお母さんは、残り僅かな体力で微かな笑顔を見せて些細な声で「ありがとう、響」と言った。



「!?」



その直後——。



お母さんの顔が傾き瞳が静かに閉じた。



「えっ…お母…さん?」



握る手からみるみる冷えていくのが感じる。



「あっ…あ…やだっやだよ…お母さん!!」



もう意識がない事は分かっていた。



だけど、私はどうしてもその事に理解したくなかった。



唇が震えて瞳から涙が溢れるように出てくる感情が、いたたまれずたどたどしくパニック状態に陥っていた。



こんな事絶対に嫌なのに、納得なんかしたくない。



こんな何も出来ていないのに、まだこれからで終わってないのに。



こんな終わり方なの?



こんなの……嫌、だよ…。



なんで…全部が夢の通りに終わってしまうなんて。