葉月くんが転校してきて数週間程が経った。
葉月くんはびっくりする程、人当たりがよく誰に対しても優しく親切で、誰かが手助けを求める前に手を貸してくれる。
いかにも女子が好きそうな性格で、爽やかで明るくて、なんというか王子様みたいな人だ。
でも、なんとなくだけど、いつも笑顔なのが少し違和感を感じていた。
近くに行けば心の声が聞けるけど、正直そんな事はしたくないから、まだ近付いたりはしていない。
まあ、男子の心の声は人によっては疲れる時もあるから、できたら近付きたくない。
葉月くんは既に学校に慣れたのか、すぐに友達も出来て女の子からも最初から人気があった。
コミュニケーション能力がすごいと思うけど、近付きたいとも仲良くなりたいとも思わなかった。
だって、私には入れる空間じゃないから。
そう思って特に興味を持たないでいた、そんなある日の事⸺。
(次の授業の準備もしておこうー)
【バサッ】
何らかの拍子で端に置いてあったノートが床に落ちてしまった。
「あっ」
拾おうと椅子を動かした瞬間——。
「はい。落ちたよ」
「えっ」
スッとノートを渡してくれる。
(あ、葉月くん)
どうやら私がノートを落とした時に、ちょうど近くにいたので拾ってくれたみたい。
「あ、ありがとう…」
「どういたしまして」
そう微笑んだ後、すぐに席に戻っていった。
「……えっ」
(今…)
「あ~いーな今の光景!」
「杏ちゃん…」
私と葉月くんの光景を見ていたのか、羨ましそうに私の席に近づく。
「拾ってくれただけだよ?」
「それでも羨ましいの!」
「そ、そっか」
(……)
その時、彼にある違和感を感じたのだった。
いったいどういう事だろう、これは。
玲杏ちゃんが近寄ってきたから考えれなかったけど、私は葉月くんに対してある異変に気付いた。
いつもと違う事に。
(声、聞こえなかった)
確か、今…彼との間、近かったはずでは。
なのに、なぜか聞こえなかったの?
たとえ、何も考えていなくても何か感じるはずなのに。
それさえも、一切なにも感じなかった。
(一体どういう事?)
彼は一体…。
その時感じた、不思議な感覚と同時に葉月くんの事が気になり始めたのだった。
それが、私が感じた彼へのきっかけだった。
最初はただ葉月くんを目で追っては、心の声が聞こえる範囲まで近づいた。
だけど、何度近づいても何も感じなかった。
(どうして…?)


