「あの人、お母さんに何するつもりだったんだろう」



「…………」



あの人の姉である美沙樹のお母さんはあの人と違ってとても良い人だ。



あの人と姉妹だなんて嘘だと言いたいくらいに性格が違いすぎる。



「今までこんな事なかったのに」



今までなかった。



もし美沙樹のお母さんに何かあるとしたら、もしかして……。



あの人は美沙樹は知らないのだろう。



美沙樹のお母さんはおそらく美沙樹に何も伝えていないのだろう。



ずっと隠していたという事だろう。



以前、犯罪歴があって住民から恐れられている事に。



だけど、軽い判決に下って短い懲役で終わっているんだ。



父さんと結婚した後は大人しくしているようだが、父さんと結婚前も何かの罪を起こしたと父さんに聞いている。



でも、その事件があの人だという判定は出来て居らず、単なる憶測である。



「あの人、また来たりとかしないよね?」



「………」



それは、俺が断定する事は出来ないと思う。



なぜなら、分からないからだ。



あの人は何を思って何を考えて行動しているなど、一度も理解出来なかった。



美沙樹はあの人に対して、とても恐怖心を抱いているらしく、俺と同じく…いや美沙樹のお母さんも同じ気持ちだろう。



「もう来ないでほしい」と。



「大丈夫だよ、きっと」



俺は少し無責任だったのかもしれない。



大丈夫だと言い聞かせて安心感が欲しかったんだと思う。



「本当に?」



「うん」



「そうだね」



嫌な予感が多少あったのかもしれない。



それでも、この時はまだ大丈夫だと信じていたかったんだと思うんだ。