やはり葉月くんは話しかけてこない。


当たり前だ。


これならやり過ごせるかもしれない。


「ねえ、美沙樹」


「!?」


思った矢先でこれだ。


「な、何…?」


私は警戒心を大いに持ちながら反応した。


もしかしたら、必用な事かもしれないから。


「あの、昨日の事なんだけど」


(うん、逃げよう)


昨日の事は聞きたくなかったので、逃げる事にしたのだった。


これは、前と変わらない行動だと分かっていても、どうしても今は葉月くんと話したくなかった。


「ちょっ美沙樹!?」


「…っ」


「またかよ…」


後ろから葉月くんが「また」と言っている気がした。


(いや、まあそうでしょうね)


「また、葉月くんから逃げてるんだ」


「な、なんのこと?」


玲杏ちゃんが怪訝そうに私に言う。


「………」


「前から思ってたけど、葉月くんってどういう関係性なの?」


「へ?」


(どうって言われても)


《まさかと思うけど、付き合ってるとか?》


「あ、ありえないからっ」


玲杏ちゃんの心の声に思わず否定を向けてしまった。


「えっ何が?」


「あ…いや、べつに」


「?」


「べつに何もないよ」


「そっか」


嘘は言っていない、嘘じゃないから。


「あれ、どこ行くの? 弥佳、もうすぐくるよ。お昼食べないの?」


「先、食べておいて」


そう言って、私は教室から出ていった。