「ただいま」


「おかえり」


家に帰ると、ここあさんがいつものように迎えてくれた。


「………」


そうだった、ここあさんとの問題もあったんだ。


「?」


「あの、これ…葉月くんに貰ったの」


葉月くんに貰った紙袋をここあさんに渡す。



「何?」


「作り過ぎたんだって」


「…あらまあ、美味しそう。ん! 美味しい」


「………」


「これ、葉月くんのお父さんから?」


「ううん、葉月くんから」


「優弥くん、料理上手なのね」


「葉月くんは何でも出来る人だよ」


「そう…」


葉月くんは何でも上手く出来る人だ。


けど、私には彼の心が分からないんだ。


「上に行くね」


「うん、ありがとう」


私はよほど浮かない表情をしていたのか、ここあさんはなんとなく気付いたのかもしれない。


「あの、響ちゃん。…大丈夫?」


ここあさんはよそよそしく私に声を掛けた。



「えっ」


振り返りここあさんの顔を見ると、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。


「私…言い過ぎたよね? いきなりそんな事言っても理解する方が難しいよね」


「………」


私が今悩んでいる理由と違うけど、でもここあさんの理由もある。


「私としては、幼い頃から知っておくべきだったと思うの。そしたら、ここまで悩まなかったんじゃないかってね。
由理ちゃんは守ろうとしていたかった気持ちは分かる。でも、知った時にただ恐怖をもたらすだけじゃない。
だって、響ちゃんはそうでしょ」


確かに後で知ると、前持って知ると、どっちが恐怖を与えないかというと前者だ。


けど、お母さんにはお母さんのやり方がある。


それが正しかったとは決して言えない。


でも、もし前持って夢のことも知っていて、お母さんが亡くなる事が分かっていたとしても、私は多分納得できるとは思えない。


だって私はそんなに利口じゃないから。