葉月くんを見ると、彼は苦々しい表情で下唇を歪ましていた。


「…そんなの分かってますよ、あの人達がおかしい事ぐらい」


ボヤつくようにぽつりと漏らしていた。


「葉月くん!」


そのまま葉月くんは無言のまま歩き始めた。


「…ふう、…まあ、しょうがないよね。無理もないか」


「………」



ここあさんは分かっていて、わざと煽る言い方をしたように見える。


「帰りましょうか」


「うん…」


葉月くん、なんだかとても苦しそうな表情をしていた。


つまりそれって、あながち間違っていないって事に当たるのだろう。


先に行っているここあさんの後を私は、一歩二歩と追うように歩みを進める。


「…っ」


と、歩いていた足を早め駆けてここあさんに近寄る。


「ここあさん、あの!」


「ん?」


「私…」


「………」


私が言いたい事を表情で理解したのか、「はあ」と溜息を付かれた。


「優弥くんの後追いたいの?」


「えっ」


まだ何も言っていないのに、顔で葉月くんを追いたいとでも言っていたのだろうか?



「目が気にしてるよ。行きたいなら行けばいいよ。その代わりに夕飯までに帰ってきてね」


そう言って、私が持っている荷物を手にする。


「ほら、行って」


「う、うん」


なぜか促されるような形で言われてしまった。


もしかして、気付いていたのだろうか?


でも、私が気にしていたのは事実だ。


私はそのまま、ここあさんから離れて葉月くんが歩いて行った方向へと駆けていった。