「響ちゃんはともかく、他の人からすればそういう考えになると思うけど、でも…心原家の狂気感情を理解しているのなら、そうは思わないのよ。…本当に恐ろしいのよ心原の血筋というものは、知らないと何も理解できないからね」



「……知らないと」



そうだ、何も知らないという事は何も分からないって事なんだ。



私がどんなに悩んでも落ち込んでも意味がないし、分からないのも当たり前なんだ。



「じゃあどうしたらいいの?」



ぽつり漏らした嘆きにここあさんは静かに応える。



「響ちゃんはもう…何も知らない由理ちゃんに守られているだけの女の子じゃなくなったの。
あなたは心原家の秘密に踏み込み始めているのよ。
美実が現れて由理ちゃんが亡くなった事で、とっくに踏み込んでしまっている事に気付いているはずでしょ」



ここあさんのその言葉はまるで忠告を促すようなはっきりしたものだった。



もう分かっているはずだと目で訴えているかのような。



「……」



(そうだよ、ずっと前から知っていたよ)



どうしてお母さんが私に教えようとしなかったのだって、ただ心原に踏み込んでほしくなかっただけだった。



踏み込んでしまったら、自分じゃあなくなってしまう。



「知った所で何も変わらないのよ、未来は決まっていたからね」



「どういう事?」



未来は決まっていたって…?



まさか、お母さんが殺される事は既に決まった事項だと言うのだろうか?



そんなはず……。



だって、回避出来る可能性だって何かあったかもしれない……。



「ないのよ…回避する事は」



心に思った矢先、ここあさんは小さく呟いた。



その声はとても小さく抑揚がなかった。



「1つ秘密を教えてあげましょうか」



「えっ」



(秘密?)



そう言ってここあさんは、私の隣の椅子に掛ける。