「ねえ、響ちゃん」



「!」



落胆している私に寂しげな声で私を呼ぶ。



その声になんとなく顔を上げた。



「私も同じように狂気の感情が現れた時、酷く驚いたわ。私にもこんな感情があるんだって、自分が自分じゃないってね」



「………」



「けど、すぐに我に戻った時、酷く後悔したわ。
あんな事を放ってしなうなんて思いもしなかったんだもの。けど、覚悟はしていたわ。お母さんから言われていたから、すぐに理解したわ。…理解するしかなかったのよ」



理解しないから相手に伝わらない。



じゃあ、ここあさんは自分を理解しているって事だろうか?



だから、落ち着いてるのだろう。



「理解するって事は自分を認めるって事で、本当の理解なんて誰も分からないよ。特に自分はね。…私だって、由理ちゃん達の家族があんな形になるなんて誰が想像したと思う?」



「………」



そんなの美実さん以外誰も想像しないはずだ。



おそらく美実さん以外は誰も想像していないはずだ。



誰が望んだのだろう?



誰も望んでいないはずだ。



そんな結末……。



「私がなった時はそこまで落ち込まなかったわ。
ただ、うちの母はそういうのがなかったのよ。母も同じ血を持つんだけど、そういう機会がなかったわけじゃないの。ただ、おばさんと母はお互いに干渉しない姉妹だったのよ。おばさんは昔から狂気の感情がよく出ていて、それが母には恐怖に見えていたのかもしれない。
だから、逃げるようにひい祖父の所に行っていたみたいなの。自分もなってしまう、祖母もそういうのもあって、その感情になりたくなくて逃げていたのだと思うわ」



ここあさんの家も同じ事が起きていたんだ。



同じ血を通っているから?



「じゃあ、おばさんはなっていないの? 今でも」



確かに穏やかな感じの人だった。



抱きしめられた時、心に突っかかってる感情が目に見えた。



あれは、もしかしたら…。



「そうね…、一度もね。でもむしゃくしゃはあるのよ。それなりの感情があるから。それが恐怖なのよ。自分の意思とは別の行為をしてしまうのよ。度が過ぎると支配されてしまうもの。普通の人間だって同じなのよ。ただ心原は怒りの強さが強すぎて制御できないだけなのよ。理解しろって言うほど難しいわよ」



(ああ、そっか、そうなんだ)



感情なんて誰も理解なんだ。



私の生まれた感情なんて…。



「しょうがないんだね」



「そうね……」



しょうがないで片付けられる。



それが心原の血なんだ。