「!?…ええっ」



「っ」



(やばい……。思わず抱きついてきたしまった)



というより、葉月くんが私を引き寄せ抱きついた時よりも、私が抱きついた時の方が驚いている。



自分からするよりも、相手からされる方が驚くはずだ。



「あ、あの…っ…ごっごめんなさい」



「なんで、自分からした本人が動揺してるの?」



ごもっともな意見なのだけど…。



あれ、結局…さっきと同じで私の方が遥かに動揺している気が。



「えっと…あの…私は…その」



(ええと…なんと言えば…)



「何?」



(あ…)



葉月くんの優しい声音が動揺していた気持ちがスッと落ち着かせてくれた。



「あのね、私は自分があまり好きじゃないの」



「そっか」



「でも、葉月くんが私の事を真っ直ぐで心が強いと言われても、全然実感なくてそうは思えないの」



「…うん」



「でもね、そう信じてくれる葉月くんを信じる事はできるよ」



「…えっ」



「私は臆病だし弱虫で泣き虫な欠点しかない私だから、それでも誰かの想いには応えたいの。そう思いたいの」



「……」



葉月くんは私の言う1つ1つの言葉に頷いてくれていた。



「私ね、初めてだったの。ずっとね、お母さんが言うように男の子は獣だから仲良くしない方がいいって言われてたの。だから、ずっとずっと興味持った事なかったんだ。男の子もそうだけど友達もそう、お母さんの意見を重視しての人付き合いだったの。けど、葉月くんに対しては自分から気になったの。こういうの初めてで、近寄ってくれる人も初めてだったんだ」



そう、全部初めてだったんだ。



「でも、どうしたらいいのか分からなくて、これだけはお母さんを頼ったらいけない気がしたの。
その矢先にあんな事が起きてしまったんだけど」



「………」



葉月くんはいつの間にか頷かなくなっていた。



「でもね、人を知るって事はすごく難しい事かもしれない。1つ間違えるときっと取り返しのつかない事になるから。でもね、でも…私は、葉月くんの事知りたいって思ったの。別に私と葉月くんは友達という関係じゃなく、ただのクラスメイトで特別な関係になりたい訳でもないの。ただ、どうしたら苦しみを少しでも和らげあげられるのかなって」



「えっ…?」



特別な感情などないけど、知りたいって思うのも特別な感情の1つなのだろう。



「…そんなの傷付くだけなら止めた方がいいよ。
けどさ、本当の俺の事知ったら幻滅するよ? 美沙樹が思っている以上に最悪だから」



「………」