「でもさ、我慢していたことよりも自分を見せる事もずっとずっと辛い」



葉月くんは段々体が震えながら言葉を吐き出していく。



「…いいよね、みんな。自分を出せて。迷いや苦しみもなく出さて。俺はある日から他人に素を出す事を怖くなった。今だって無理やり出しているせいで、感情が恐ろしく苦しくてつらい」



「………」



(あ…)



その時、ここあさんが私に言っていた事を思い出した。



あの日、家に帰ってきてここあさんにあることを言われていた。



その時は疲れていたせいか、あまり気にしていなかったけど、あれは葉月くんの事だったんだ。



『彼、かなり危うい精神よね…。少し心配になるぐらいに。わざわざ感情に蓋をしなきゃ生きられないなんて、理解できる人はどれだけいるのかしら?』



そうか、葉月くんは私は全然違うんだ。



でも、私が葉月くんを理解できるとも思えないし、真っすぐでいられるかもわからない。



けど、葉月くんからすれば私は、羨ましい程に真っすぐで、だからこそ強い心を持っていると言っているのだろうか?



「ねえ、どうして…私は強いと思うの?
それは、まっすぐだから強いの?」



「………」



私の質問に葉月くんは間を置いて口を開く。



「それもあるけど、美沙樹はあんなにも歌菜と美実さんに酷い事されても、決して自分を保っているじゃんか」



「!」



「それに、助けようとも手を差し伸べようともしていたから、優しいぐらいに強いんだなって思って。
そりゃあ、美沙樹はすごく弱いよ。弱くて守ってあげなきゃいけないぐらいに心配になるよ」



それは単に私じゃなくてお母さんがそうさせてくれていただけだから。



「でも、俺はそうはならない。助けようとも思っても自分自身の心じゃないから。気持ちを押し込めようとするだけで必死で仕方ないから。羨ましくてしょうがない。どうしてそんなに真っすぐにいられるの?」



「そんなこと言われても、私はただお母さんに言われたように「どんな時でも優しい心でいてほしい」っていつも言われていただけ。確かに批判されたら傷つくし悲しいよ。でも、引きずって良い事なんてないじゃない。
悲しいけど、それが自分なんだって納得できるまで問い続けたい。しょうがないじゃない、どんな人間でも欠点はたくさんあるし、納得できない自分はあるよ。私は欠点だらけでなにもできないよ。それでも、自分の心を裏切ったら、何もかも信じられなくなるじゃない。私はそんな自分になりたくないよ…」



私はただお母さんを信じていたいだけなのかもしれない。



お母さんを裏切ったら自分自身を裏切ることになる。



いつも言ってくれていた『優しい心にいてほしい』という心をできなくなってしまう。



それだけは本当に嫌だから、だからだから………。