「美沙樹は…俺にとってなんだろうな」



正直、俺とあの子の距離感は曖昧だ。



近くはないけど遠い。



遠いけど近くはない。



「言っておくけど、俺は歌菜ちゃん以外の女子はありえないと思ってる」



教室に向かっている途中、ぼそっと言った言葉に零詩ははっきりと言う。



「何が?」



「お前には歌菜ちゃん以外の女子なんて似合わないよ」



「それはお前が歌菜が好きだからだろ。
お前の意見を俺に押し付けるな」



「意見じゃなくて本心だよ」



「なんだよそれ…」



零詩はただ歌菜が好きなだけで、歌菜以外はありえないと思っているだけだ。



「歌菜は…無理だよ」



「けど、美沙樹だって無理だ。あの子は良い子だけど真っ直ぐ過ぎる、釣り合うはずがない。感情が壊れたお前には歌菜ちゃんがちょうどいいんだよ」



「だからさ」



零詩はいつだって歌菜の事になると必死だ。



連絡しろだの復縁しろだの別れるべきじゃないだの、としつこく言ってきてきた。



そんなに好きなら零詩が歌菜の側に行けばいい事だろう。



けど、零詩はう菜の心を救えないとか言って、結局は辛い事を全部押し付けようとする。



俺は歌菜の執着や束縛や他の女子に対する嫌がらせが嫌になったから離れたのに、復縁したらどうせ同じ事の繰り返しじゃないか。



俺は自分の事でよく知っている。



一度傷付けた心は何かの衝撃がない以外、同じ事を繰り返し元には戻らない。



たとえ繰り返しがなくても感情は戻らないって。



「無理なものは無理! お前は歌菜がおかしくなってしまっている事知ってるだろ? それを見てもなお俺はあいつといる事が正解だと思ってんの?」



「…確かに歌菜ちゃんは異常だよ。でも歌菜ちゃんにはお前しかいないじゃん」



「俺は手放したんだよ…。
一度手放したら、二度と手を伸ばせないよ」



「優弥…けど」



(けどじゃねえよ…)



零詩の歌菜に対する感情は正直腹が立つ。



俺には歌菜は必要がない事を理解しようとしない。