「それってどういう意味? じゃあ今までずっと」



「そうなるのかな」



頷いた葉月くんはあっけらかんとした反応だった。



「価値がないっていう話ししてたでしょ、昨日」



「うん…」



「美沙樹が美実さんに言っていた価値があるっていう言葉を聞いて絶望を感じたような気持ちになったんだよ」



「えっ」



それはお母さんが言ってくれた言葉をそのまま美実さんに向けただけで、本心では何も思っていない。



「違うよ。あれはお母さんが言っただけで…決して」



「うん…でも、言ったのは自分でしょ?」



「それは…そうだけど」



言ったのは自分。



確かにそうだけど、私は…。



「価値のある人間と価値のない人間って、きっと俺らみたいな事を言うんだね」



「…えっ?」



「俺はさ、美沙樹が思っている程、優しくもなければ強くもない。優しくて強い人間として良い人を演じてるだけの偽りの人間なんだよ。…空っぽなんだよ、ずっと…」



葉月くんの抑揚のない声が耳に入る。



「…葉月くんは価値のある人間でしょ?
だって優れているじゃない?」



「じゃあ、どの辺が優れているの?」



「えっ?」



(どの辺って)



どの辺が優れているって聞かれても、だって葉月くんは…。



(あ…)



答えれないのもあたり前だ。



だって私は葉月くんの事を何も知らないから。



私が知ってるのは優しい葉月くんの姿だけだから。



「私…何も知らないんだ」